「花粉症」(HUNTER×HUNTER/幻影旅団)





「っくしゅ」





思わず出てしまったクシャミに、ずず、と鼻をならす。



やけにクシャミの音が響いたここは、ある廃墟の一角。なんでこんなとこにいんのか、って 言われたらここがアジトだから。なんのアジトかって言われたら、泣く子も黙るA級犯罪首の 幻影旅団のアジトだ。じゃあ、なんでそんな危険なやつらのアジトにいるのかって言われたら、 そりゃあ、あれだ。その一員だからなわけです。





「うぇっくしゅ!」

「あら、さっきからクシャミが多いわね。大丈夫?」

「んー」





すん、と鼻をすすりながら答える。そんな私を心配して声をかけてくれたのはパク。 さっきからクシャミ連発している私をさすがに不安に思ったのか、こちらに歩み寄ってきた。 パクは流星街に居る頃から真っ先に気づく人で、小さいころからこうやって心配してくれる。 とても頼りになるお姉さん、というか最早お母さんな感じがする。

「風邪かしら?」と私の方を窺うパク。風邪、なのかなあ。 生まれてこのかた、風邪を引いたことがないっていうのが私の自慢だったのに!! なんて変な方向に嘆きながら、ずずと鼻をすする。
そんな私に「悪化する前に休んだ方がいいんじゃないか」とフランクリン、 「同感だ」とボノ、「無理しないでね」とコルトピ、「さっさと休みな」とマチ。 うう、みなさん聞きました?天下の大悪党である幻影旅団ですが、こんなに優しいんです。 「お腹出して寝ちゃダメだよー」と若干1名言っていますが。寝てないからねシズク!

うーん、でもこれだといかんいかん。今日、確か仕事あったような。 もし、もしだよ。警備を後から気づかれずに倒そうとする場合、うっかり「ずずっ」とか 「ふぇっくしょん!」とかいう感じで声を出しちゃったら、気づかれちゃうわけですよ。 鼻をすすりながらお宝頂くとか、たぶん支障出るよコレ。 ええ、どうしよう。今日の仕事休もうかな。

そう考えてるうちも、私はクシャミを連発する。





「なに?風邪ひいたの?」

「外まで聞こえてきたぞ」





ふと声が聞こえてきたのは、出入り口の方。そっちを見やれば、ぞろぞろと人が入ってきた。 シャルを先頭に、クロロ、フィンクス、フェイタン、ウボォー、ノブナガ。 ・・・見れば見るほどいかつい面子だ。というか、怖すぎる。子どもマジ泣きするレベルだわ。 ホールであるこっちに入ってくるなり、瓦礫の山に腰を落ち着ける面々。 おかえり、だとか目当てのものはあった?だとかパクとかマチが言ってるあたり、 たぶん盗ってきた帰りだろう。クロロ満足そうだし、珍しいものでも盗ってきたのかな。

先頭を歩いてきたシャルがこっちにやってくる。





「で、なに、風邪?さっきからやけにクシャミしてるみたいだけど」

「うーん、風邪ではないと思うんだけど」





私がそう言って鼻をすん、とすすると、シャルは少し心配そうな顔をして 私の方に手を伸ばしてきた。なんだろう?と思えば、その掌は私のおでこに当てられる。 うーん、と唸れば手を離すシャル。





「熱はないみたいだけど」

「そうね、見ている限りはツラそうでもないし」

「コイツ、風邪引くほど柔じゃないね」

「だよねー」





そこから話をしだす旅団の面々。え、まさかクシャミでここまで大事になるとは。 申し訳ない気持ち7割、ちょっと嬉しい気もするような3割。 白湯飲んでさっさと寝ろだとか、情けねえなあ!とかそれぞれ口にする。 みんなの言葉を耳にしながらも、私のクシャミは止まらない。心なしか、目がかゆい気がする。 ごしごしと目をこすっていると、今まで黙っていたフィンクスが口を開いた。





「・・・花粉症じゃねえのか?」




その言葉にいっせいにみんなが私の方に目を向ける。 え、花粉症?カフンショウ?あの、春の時期になるとツライやつ?

フィンクスの言葉に、ホールにある高そうなソファに腰かけていたクロロが口を開く。





「クシャミはいつ頃から出始めた?」

「え、っと。ここ最近?ちょっと暖かくなり始めた頃かなあ」

「鼻水は出るか」

「うん、ずびずびいってる」

「目は?」

「そういえば、痒いかも。ちょっと涙でそう」

「・・・」

「ふぇっくし」





やばいな、全然クシャミ止まんなくなってきた。 ふとみんなの方を見てみると、呆れたような顔をしている人がちらほら。 え、ハアとか溜息つかないでよマチ。 いまだにずず、となる鼻をすすりながら改めてクロロの方を見る。





「・・・今日の仕事の前に、薬局襲うか」




どうやら私は旅団で花粉症患者第1号になったらしいです。 というか、たかが花粉症で薬局襲うとかどんだけだ。明日のトップニュースが楽しみだ。