「桜」(黒子のバスケ/キセキの世代)





空は綺麗に澄み渡った青で、ぽかりと浮かぶ白い雲が可愛らしい。 ときは、春。沢山の別れをし、また新しい出会いへの一歩となる季節だ。 私も勿論例外ではなくて、つい先日中学を卒業し、今は高校への準備期間である春休み。 卒業式では友人たちとの別れに涙が止まらなかったけど、なんだかんだで連絡を取り合ったり してたりするので繋がりが切れたわけではない。

けれど、向かう道が別れたことに違いはなくて、なんだか寂しい気持ちでもある。 高校での新しい生活に胸が高鳴る一方で、不安やら寂しさやらが入り混じってる。 ぐるぐると、私の中で何が何だか分からない感じだ。 そんな曖昧な気分の中、今日はとてもいい天気だったので、気分転換も兼ねて外へ足を向けてみた。











「・・・うわ」




家を出てから数十分。住宅街を抜けて、公園を横切り、川沿いへ向かった。 川沿いについた瞬間、思わず声をあげてしまったのは仕方のないことだと思う。 私がその目にしたものとは、視界に広がるピンクだった。

そういえばニュースで、今週あたりが桜の見頃だって言ってたっけ。 そんなことを頭の片隅で思いながら、私は桜の木の下に歩を進める。 そよそよと風が桜の木を揺らす。そのたびに、ひらひらと桜の花びらが舞い降りる。 何処までも続くその景色に、私はただただ黙って歩きつづける。

何処からか子ども達の声が聞こえる。楽しそうな、笑い声。 ここらは車通りが少ないから、エンジン音とかは聞こえない。たまに聞こえる、すずめの囀り。 私の視界では、青空の中に満面のピンクが揺れる。

なんだか無性に泣きたくなってきた。

なんて、私はどうかしたのかな。全くもって、今日は自分がわからない日だ。 少し自嘲的な笑みを無意識に零し、はあ、と息を吐いた。





「なーに溜息ついてんスか?幸せ逃げちゃうっスよー!」





・・・はい?
聞き慣れた、だけどここで聞こえるはずがない声に肩を思わず揺らしてしまった。 そろり、と振りかえってみて見るとそこには見なれた金色があった。





「・・・黄瀬くん」

「はーい黄瀬涼太っス。てか、何なんスかその間はー?もしかして俺のこと忘れちゃってたとか?」

「いや、違うけど。うん、ちょっとビックリしただけだよ」

「なら良いんス!」





そう言ってニコニコと笑う目の前の人物。言わずもがな、私の中学時代の同級生。で、友人。 相変わらず眩しい金髪で、バックの桜の木によく映える。まるでどこぞの広告みたいだ。 黄瀬くんは当たり前のように私の横に移動してきて、歩き出す。それにつられるように私も 歩き出せば、なんだか嬉しそうに笑う黄瀬くん。・・・わからん。

いや、というか




「なんで黄瀬くんがこっちにいるの?神奈川じゃなかった?」



そう、そうなのだ。私の記憶が正しければ、黄瀬くんは神奈川の海常だとかいう高校に通うはずだ。 ここは東京であって、神奈川ではない。そう言えば「撮影っスよ〜」という呑気な声が返ってきた。 ・・・そうだった、この人はモデルだった。撮影と言われれば、東京にいることも頷ける。 いや、だけどこんな地域で?確かにここは東京だけど、都心部!って感じではない。 なんだか考えれば考えるほど疑問が沸いてくるので、余計なことは考えないことにした。





しばらく黄瀬くんと談笑しながら桜並木を歩いていると、またもや見慣れた後姿が視界に入った。 どうやら黄瀬くんも気づいたらしく、その姿へ大きな声を掛けながら手を振る。





「黒子っちー!!!」

「・・・黄瀬くん、そんなに大声をあげなくても聞こえてます」





振り向いてそう静かに言ったのは、これまた中学時代の同級生であり友人である黒子くん。 淡い水色とも白色ともいえる髪の毛が懐かしい。隣にいる私に気づいた黒子くんは、 「おひさしぶりです」と薄く笑って会釈してくれる。それに私も慌てて会釈する。

黄瀬くんとは反対隣である位置に黒子くんが来る。左右に友人に挟まれてまた歩き出す。 テンション高めの黄瀬くんを軽くいなす黒子くん。なんだか中学生のときと全然変わってなくて、 思わず笑ってしまった。 黒子くんはどうやら散歩の途中だったらしい。確か黒子くんの通う高校はこの近くだったな、 とぼんやり思いながら二人の会話を聞く。





「そういえば、なんで黄瀬くんはここに?」

「こっちで撮影あったらしいよ〜」

「・・・え?」




私が変わりに答えると、黒子くんが不思議そうな顔をした。そして、「確か今日はオフの日だと・・・」 と小さく呟いた。え?どういうことだろう聞き間違いかな、と目をパチリとさせれば、 反対隣の黄瀬くんが「わーっ!黒子っち、ちょ、いまそれはナシっスよー!!」と慌てて 黒子くんの口を塞ぎにかかった。・・・?なんだかよく分からないけど、まあいいか。


少し喧しく(黄瀬くんが一方的に)言い合っている二人を余所に、辺りを眺めて見る。
・・・今日はいったい何の日なんだろう。これは何かの前兆だったりするんだろうか。 心中首を傾げながら、視界に入ったこれまた懐かしい姿に声をかける。





「緑間くん」

「・・・お前か」

「うん、私です。こんにちは」

「ああ」





言葉少なに返してくれたのは、またまた中学時代の友人である緑間くん。 満面ピンクの桜の木の下に佇む長身に、少し笑みがもれてしまう。緑間くんとこういうところで 会うとは少し予想外だったから、ちょっと何を喋ればいいのか一瞬迷ってしまう。 そんな私が分かりやすかったのか、少し訝しげな目をした緑間くんは 「今日のラッキープレイスが桜並木だったのだよ」と教えてくれた。なるほど。

最近どうしてたとか、高校の部活はもう始まったのかとか、私が聞くと、口数は多いとは 言えないけどちゃんと返してくれる。こういうところ、変わってないなあ。 私がそんなことを考えると、「お前も変わらんな」という声が聞こえた。勿論声の主は 緑間くんなワケで・・・エスパー?っていうか今、ちょっと笑ったような。

なんてちょこちょこと話しをしていると、ポケットからバイブ音が聞こえてきた。 携帯をとると、着信画面には「さつきちゃん」という文字が。・・・これはもう、仕組んでる としか思えなくなってきた。緑間くんに目線をやれば、軽く目線で許可を得れたので電話にでる。





「もしもし?」

『もしもし!?ね、いま暇?時間あるかな?』

「え、あ、うん。ていうか、どうしたのそんなに急いで」

『あ、ごめんね。ちょっといいこと思いついちゃって!』

「うん?」

『みんなでお花見しよ!』





・・・はい?怒涛の勢いでマシンガントークをされたかと思えば、今度はなんだというのだ。 携帯からは相変わらず少しテンション高めのさつきちゃんの声が聞こえてくる。 えっと、話を整理すると中学時代の(というか、主に当時よくつるんでたバスケ部の)メンバー でお花見をしよう、ってことか。私は別に用事もないので了承すれば、すごく嬉しそうな声が聞こえてきた。

あ、そうだ。こっちに既に3人いるんだった。このことを伝えれば、またもや嬉しそうな声。 それと同時に、赤司くんとむっくんが居ないのは残念だけど、とこぼした声は本当に残念そうだった。





『じゃあ、私はだいちゃん連れてそっち行くね!』

「うん、わかった」





そう言えば、すぐさまプーップーッと通話終了を知らせる音が聞こえてきた。 ・・・どれだけ嬉しいんだろう。


電話でのさつきちゃんとの会話が終わったので、顔を少し上げてみれば いつのまにやら黄瀬くんと黒子くんもこっちに来ていて、緑間くんと会話をしていた。 そんな3人に先ほどのさつきちゃんとの会話のことを言うと、黄瀬くんは嬉しそうに、 黒子くんは薄く笑って、緑間くんはちょっと訝しげに了承してくれた。


待ち合わせである川沿いにある公園(ちゃんとバスケコートもある)に4人で向かう。 黄瀬くんはよっぽど楽しみなのか少し早歩きで、それに少し呆れたように笑う黒子くん、 ちょっと面倒くさそうに溜息をつく緑間くん、そしてその後ろに私。 なんだか微笑ましい光景に口元を少し綻ばせていると、またもや携帯が振るえた。 今度はメールだ。取り出して受信ボックスを開いて見ると、新着メールが2通。 差出人はどちらとも、これまた見覚えのある懐かしい名前で、思わず笑ってしまった。

1通は、紫原くんからで「元気ー?」と一言。写真が添付されていて、どうやら高校での チームメイトが映っている。部活の休憩中なのか、とても楽しそうな一枚だ。 そして、もう1通は赤司くん。綺麗な桜の写真が添付されていた。本文にはなにも書いてないメール。 だけど、その桜の写真だけで赤司くんが言いたいことが分かる気がした。





「なにしてるんスかー?置いてくっスよー!!」

「うるさいのだよ、黄瀬。はしゃぐな」

「ほら、あなたも行きましょう。黄瀬くんが五月蝿いですから」





なんだか無性に泣きたくなった。